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エサオマントッタベツ岳
2001/08/15
今年2度目、合計4度目となる「エサオマン」。やっとその晴れ姿を望むことができました。
この山は日高山脈最高峰の幌尻岳2***mの南東側に位置し、北部日高に属します。
ほかのどの山から見てもそれとわかる鋭く天を突く頂、垂直に切れ落ちる顕著なカール地形、そして標高差で100bほども続く美しくも恐ろしい滑滝が山好きの心をくすぐります。
しかし、それらの魅力がそのままこの山の厳しさでもあり、一般の登山者を容易には近づけてくれません。日高の山の多くは登山道を持たず、林道終点から川を歩き、沢をつめて稜線に飛び出します。
エサオマンも同様、5時間以上沢を歩いてやっとカールへたどり着きます。
カール底の雪渓と岩屑上の草原が見せるやさしい表情と、垂直に立ちはだかるカール壁の迫力に、日高に入ったことを実感する瞬間です。「ピーーーッ!!」と鋭いナキウサギの声と、登山者に驚き藪へ逃げ込もうと草原を走るヒグマの姿も、日高のカールには欠かせないスパイスです。渡渉を繰り返したんたんと川を進む第1ステージ。急に勾配がきつくなる沢をつめ、滝や崖を乗り越えてカールへとたどり着く第2ステージ。そしてここからが、あまりにきつい傾斜と水平より下向きに生えるミヤマハンノキなどのブッシュに、両手も使わないと進まない第3ステージです。
多くの人はカールにテントを張りますが、私は稜線まで出ておかないと仕事にならないので、カールに着いて休憩するときも、気持ちのテンションはまだ緩められません。
意を決しこの壁に取り付いて、手首の時計兼高度計が1800bを表示したころ、上を見上げるとハイマツが。
稜線の東側、冬の間雪屁が張り付く垂直に近いカール壁にはハイマツは見当たりません。だからこのハイマツが見えると、悦楽の稜線はすぐそこです。
ハイマツの枝をつかみ、かけごえとともに飛び出したそこには、東斜面にいくつものカールを抱えた日高主稜線が襟裳の海へと続いています。この眺めにしばし夢見心地の後は、ハイマツ泳ぎにうんざりさせられますが。狭い稜線のところどころ、一張り分整地された「テン場」があります。
テントを立て、一息ついたらカメラを背負って山頂を目指します。真新しいクマの糞と植物の根を食べるために掘り返した跡がいたるところ目に付きます。
垂直に切れ落ちごつごつと岩が剥き出しになっている稜線の東側と異なり、西側は比較的緩やかです。冬の間激しい風雪にたたきつけられるからなのか、コケモモやクロマメノキなど背丈5a〜10aほどのツツジの仲間とハイマツが斜面に張りついています。2週前に一人できたときは、この見通しのよい斜面を、私と同時にクマも山頂方面へとゆっくりと歩いていました。程なくエサオマン山頂です。他から望む鋭い山容とは裏腹に、なんとも優しげな丸い山頂ではありますが、その展望には息を呑みます。
北には幌尻岳、戸蔦別岳と七ツ沼カール。南には「カムイ(クマ)も転げ落ちる崖」といわれるカムイエクウチカウシ山といくつものカール。1千万年くらい前、海の底から持ち上げられ、1万年前まで何度か氷河に削られてできたというこの山並。自然は本当に偉大な芸術家であると感じます。そこを悠々と歩くヒグマはやはり神(カムイ)だと思います。でも、ウェンカムイ(悪い神)もいると言うし、一応爆竹鳴らして、夕闇に溶けてゆく山々を眺めながらビールで1日を締めくくりました。