はじめに 

 私は、これまで何度も引越しを繰り返してきました。いろいろな所に住んできて多くのことが経験できた反面、自分のなかで「ここが私の故郷だ」という場所を持つことが出来ないでいました。大学に入学すると、いつの頃からか「卒論では地域のあゆみに焦点をあてたものを書きたい」と思うようになっていました。私は、自分が拠って立てる「ホームグラウンド」のような地域を見つけたいと思っていたのだろうと思います。
 そして、いよいよ卒論に向けて動き出したとき、私は「恵み野」を研究対象にすることに決めました。恵み野は、私の両親がいわゆる“マイホーム”を建てていた所でした。両親のものながら、私にとっても初めての持ち家であって、ようやく「私の家」と実感を得た場所が恵み野だったのです。とはいえ、恵み野に対する認識は、「私の家のある所」というものでしかありませんでした。ですが現在の私にとって、故郷とは言わないまでも「ホームグラウンド」となりえる地域は恵み野しかないと考えました。同時に、恵み野について調べることは地域学習、特にベッドタウンの教材化に向けての基礎的な教材研究にもなると考え、本論文「ニュータウン恵み野開発」に取り組むことを決断しました。
 さて、本論の研究対象となる恵み野は1980年代に北海道恵庭市に造成・分譲されたニュータウンです。この恵み野というニュータウンは札幌のベッドタウンとしての性格を持っていると同時に、その開発母体が第3セクター方式であることや従来のベッドタウンとは異なる街づくりコンセプトを掲げるなど、それまでのニュータウンとは異なる開発が進められました。そして現在では、ガーデニングブームのなか「花づくりの街恵み野」として、雑誌やテレビにも度々取り上げられています。本論文では恵み野開発をメインテーマとしますが、恵み野の開発の背景には恵庭市の思惑や札幌圏の膨張があることから、恵み野開発を論じるには恵庭市のあゆみや札幌の膨張についても検証する必要があります。そこで、次のように本論を構成しました。
 第1章では、第2次大戦後に急速に進んできた札幌への一極集中と、そのなかでベッドタウンとして次第に札幌圏に組み込まれていく周辺自治体の様子を、人口動態を主な手掛かりにして検証します。この札幌圏の膨張の様子から、恵み野という札幌のベッドタウン造成の札幌圏から見た背景を探ります。
 次に、第2章では恵み野開発に至るまでの恵庭市のあゆみを振り返ります。入殖期から純農村だった恵庭ですが、第2次大戦後その恵庭は急激に変貌していきます。自衛隊基地、工業化、さらに札幌圏の膨張という恵庭の変貌の様子から、恵み野というニュータウンの恵庭市にとっての位置付けを考えます。
 第3章では実際の恵み野開発について、住民の開発気運の高まりから団地の販売終了までの動きを追っていきます。当時は例を見なかった第3セクター方式での開発や分譲・販売の状況を見ていくこと通して、恵み野開発の実態に迫ります。
 最後の第4章では、分譲・販売が完了して以後の恵み野を見ていきます。恵み野開発事業への評価をおこなうとともに、現在までの住民による街づくりの状況を振り返り、恵み野の抱える課題についても考えていきます。
 このような4章で本論は構成されますが、本論に入る前に現在の恵庭市の概況を提示して、前置きを終わりたいと思います。

位置 恵庭市は石狩平野の南端に位置する。北西は北広島市・札幌市に東南は千歳市・長沼町に隣接する。また南西部は支笏洞爺国立公園の一部を形成している山稜からなっている。
面積 恵庭市の面積は、294.87?であり、南北23km、東西34kmで、東西に長い弓状の地積を示している。また標高に関しては“西高東低”であり、西側の1000mをこえる連山から、中央部の恵庭市街で33m、東側の長沼町に接しその境界ともなっている千歳川沿岸では標高8〜9mとなっている。
自然 西側の山地は森林であり、恵庭市の約50%を占めている。東側は低地となっている。恵庭市の東西を横断する形で漁川が流れていて、恵庭市の東の境界を流れる千歳川に合流している。また北側の境界には島松川が流れている。
交通 市域中央部を南北に縦断する形で、国道36号線・JR千歳線・北海道縦断自動車道の主要交通路が通っている。
土地利用 西側の山林では、国有林において若干の伐木続いている。山林のうちでも比較的標高の低い場所は自衛隊の演習地として利用されている。漁川にはダムが作られ、上流に滝があり観光名所となっている。他には、金鉱山があり採掘が行われている。東側は田畑となっているが、東に行くほど水田が多くなり、市中央部によるにしたがって畑作を行っている。中央部は、住宅地・商業地・工業団地が存在している。特に、国道36号線とJR千歳線の周辺に集中している。また高速道路の付近に3つの陸上自衛隊の駐屯地がある。

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